「大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見いだしがたく、(中略)医薬品の施用・受施用等を除き、大麻の使用を禁止(いわゆる「使用罪」)するべきである」と使用罪創設を盛り込み、委員から了承された。 ところが具体論を議論する小委員会では、当初から使用罪創設ありきの資料で議論が進められ、罰則導入に賛成する意見を表明している委員が選ばれるなど「使用罪を作りたい厚労省が恣意的に議論を進めているのではないか」との批判があった。 このとりまとめは、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会に報告・了承の上で、大麻取締法など関連法の改正案が早ければ来年の通常国会にも提出される見込みだ。

使用罪がない現状が「大麻使用へのハードルを下げている」と説明

とりまとめ案では、大麻から作られた重度のてんかん治療薬(エピディオレックス)がG7諸国で承認され、日本でも治験が進められているものの、大麻取締法で大麻から作られた医薬品の使用が禁止されているため、承認されても使えない問題があると指摘。 大麻取締法を見直して「有効性・安全性が確認され、医薬品医療機器等法に基づく承認を得た医薬品について、その輸入、製造及び施用を可能とする」一方、不正な薬物使用については取り締まることが必要、という建て付けとなっている。 大麻の不正使用については、現状では「所持罪」があるのみで「使用罪」がない。これについて、「大麻を使用してもよいというメッセージと受け止められかねない誤った認識を助長し、大麻使用へのハードルを下げている状況がある」と説明。 その上で「若年層を中心に大麻事犯が増加している状況の下、薬物の生涯経験率が低い我が国の特徴を維持・改善していく上でも、大麻の使用禁止を法律上明確にする必要がある」とした。 特に若い頃から使うと健康被害が強まる恐れがあることから、「大麻に依存を生じるリスクがあることも踏まえ、乱用を早期に止めさせるという観点からも、大麻使用に対するペナルティーを明確にする必要がある」と使用罪創設の必要性を強調した。 その上で、「他の薬物の取締法規では所持罪とともに使用罪が設けられていることを踏まえ、大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見いだしがたく、(中略)医薬品の施用・受施用等を除き、大麻の使用を禁止(いわゆる「使用罪」)するべきである」と、使用罪創設を訴える内容だ。 使用罪創設への批判に対しては、「薬物を使用した者を刑罰により罰することは、薬物を使用した者が孤立を深め、社会復帰が困難となり、スティグマ(偏見)を助長するおそれがあるとの意見もある」と触れた上で、こう対策を打つとした。 「大麻について使用罪の対象とした場合でも、薬物乱用者に対する回復支援の対応を推進し、後段に述べる薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も併せて充実させるべきである」

委員から「使用罪」に反対意見は出ず

この日の小委員会の議論で、「使用罪」については特に反対意見も出ずに、細かい修正の要望があった以外は、おおむね了承された。 太田達也・慶應義塾大学法学部教授は「大麻の乱用が増加していることを考えると、大麻の有害性と共に、法規制の内容についても理解が進むようにきちんと啓発を進める必要がある。使用罪を設けることで『厳罰化』というような間違った見方が流布されないように、新しい見解を示す必要がある」と述べた。 今回、薬物依存症の患者を診る医師の立場から委員として参加した小林桜児・神奈川県立精神医療センター依存症診療科・依存症研究室・副院長は、「使用罪については我が国において、安心して多様な意見を表明することがしづらいのを残念に感じていた」と表明。 また、薬物乱用防止教室などの一次予防については、「単に体に対する害を教える、こういう刑罰があると伝える、だけでは、残念ながら予防効果がないという海外の知見もある。ぜひ、もっと幅広くメンタルヘルスの問題についても含めて、多様な一次予防に関する検討がなされるようお願いしたい」と支援的な視点も盛り込むよう求めた。 また、「使用罪の法的な整備や運用については、多様な考え方が表明されて、それに国民一人ひとりが触れることによって、大麻の使用についてどう向き合うのか考える材料になることを祈っている。また、旧来の刑事罰では薬物依存からの回復を促す効果は乏しい。より医療や福祉、教育機関との連携を重視した司法のあり方について検討いただけたら」と訴えた。

佐藤監視指導・麻薬対策課長「恣意的な運用ではない」

今回のとりまとめでは、前段の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の結論について、 「①麻向法に規定される免許制度等の流通管理の仕組みの導入を前提として、大麻由来医薬品の製造や施用・受施用を可能とすること、②大麻の「使用」に対する罰則を設けること、③大麻草の部位による規制から成分に着目した規制に見直すこと等の方向性がとりまとめられているところである」とまとめている。 しかし、前述のようにこの検討会の報告書では、使用罪については両論併記にとどまっており、この報告の仕方は正確ではない。 前段の検討会の報告書の内容を無視して、使用罪創設ありきで恣意的に進められた議論ではないのか、というBuzzFeed Japan Medicalの質問に対し、監視指導・麻薬対策課の佐藤大作課長はこう述べた。 「確かに事務局からはそういう資料を出しているが、委員の皆さんに真摯に議論していただいているので、審議会の恣意的な運用だとは思っていない」 また、普段から刑罰導入に賛同している委員を選定したことについては、「薬物依存の治療で実績があり、おそらく日本で一番患者を診ている先生の経験と専門性を頼りに委員になって頂いた。前回の検討会で使用罪に反対した先生も参考人としてお話を伺って、バランスを取ってきたつもりだ」と述べた。 海外では回復支援に舵を切る中、日本で新たに刑罰を設けることについては依存症の支援者や回復者からも強い批判が出ている。 これについては「使用罪を設定するのはもちろんだが、一方で回復支援や社会復帰も大切だと思っている。司法と医療や社会的な支援の枠組みをどううまく繋げていくかについては、我々も配慮しながら今回議論している」と答えた。

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